生きていくためには戦略が必要だ

Strategy

 十分に肉体化されていない言葉というのは、うまくないパスのようなもので、それが他人に伝わることはありません。ぼくはそう考えています。

 

 高校受験用の参考書や教科書のほとんどが情報を羅列しているだけで、生身の人間が発した言葉で紡ぎあげられているわけではありません。だから、ぜんぜん頭に入ってこない。

 

 参考書や教科書に限った話じゃありません。書店に並んでいるその多くの本は、こういったわけのわからない情報の羅列だけで終わっています。そして、それらの情報を恣意的に並べ、自分勝手な主張をしている。数字をだすと、さも客観性をもつようにみえますが、少し詳しくなれば、それがたんなるハリボテだということがよく分かります。

 

 いい歳した大人はどうでもいいんですけど、若いひとたちがこういった質の低い本にさらされて、人生の貴重な時間を無駄にしないかどうか、いつも心配しています。

 

 というのも、自分自身がそういった質の低い本に散々ふりまわされて、貴重な時間を無駄にしたからです。おかげで、本に対する嗅覚がだいぶ鍛えられたんですけど。

 

 異性関係もそうみたいですけど、やっぱりいろんなひとと付き合ってみないと、どういった異性が本当に魅力的なのかっていうことは、なかなか分からないのかもしれませんね。ときには、傷つけられたり裏切られたりすることもある。でも、そうやって少しずつ学んでいく。

 

 だとすれば、ぼくが若いひとが質の低い本にさらされないような活動をしてもあんまり意味のないことかもしれない。むしろ、自分自身が質の高い本を世の中に提供することが、もっとも意味のあることかもしれない。そんなふうにも思います。

 

 しかし、昨今の出版不況はひどいらしく、出版関係の人も作家の人も本は売れないって嘆いてますね。これから本を書いて生きていこうと思ったら、よほど戦略的にならなくちゃいけない。

 

 ブックオフとかいくと、貴重な本が108円で売られていますからね。本のクオリティが必ずしもお金にむすびつくかというとそういうわけではない。

 

 心血を注いで本をつくったとしても売れないってことはいくらでもありえるでしょう。一生懸命やったからといって、試合や戦争に勝てないのと一緒です。やはり、勝つためには戦略が必要だ。あとは運もある。

 

 一方で、やっぱり勝ちたいって気持ちも必要でしょう。本を書くなら、「こういったことをこういう人たちに伝えたい」って気持ちがないと、ただお金を稼ぐためだけの品がない本ができあがってしまう。最初くらいはごまかせますけど、長い間ごまかせるわけではない。

 

 何年か前から「日本はどうして戦争で負けたんだろう」ってことを考えながら、近現代の歴史について書かれた本を読んでいます。といっても、なかなか思うようにすすみませんでしたけどね。高校時代、社会の時間にぐうぐう寝ていた罰でしょう。

 

 今からだいたい七〇年前に戦争が終わったわけですが、そのときに日本が根本的に変革したかというとそんなことはなくて、日本を敗戦にまで導いた気質のようなものはあんまり変わっていない。組織における責任系統の不在とか、義理とか人情でものごとをすすめることとか。

 

 日本の経済力の低下がさけばれて久しいですが、これは昨日今日さけばれ始めたんじゃなくて、もうずっと前から、三十年以上前から言われていることです。そりゃあ、高度経済成長期みたいな高い成長率からしたら、どんな経済状態だって悪くみえますよ。

 

 トヨタとかソニーとか、そういった企業が世界に向けてでていった時代の記憶があるひとは、今の日本をみて嘆かわしくなるでしょう。でも、視点を過去においていまの現状を嘆いても何も始まらない。うっかりすると、自分たちが輝いていた時代と同じことをしようとする。失敗して当たり前です。

 

 そもそも、高度経済成長というのは日本が独力で成し遂げたことではなくて、米ソ対立構造のなかで、アメリカが日本の安全保障を担ってくれたからできたことでしょう。普通だったらソ連とか中国がこんな近くにいて、落ち着いて経済に専念できるわけがない。

 

 経済がそうやって右肩上がりの時代であれば、何をやっていてもほぼ大丈夫だったんでしょう。会社にいれば自動的に給料はあがっていくし、商売だって何をやってもぼちぼちうまくいったはずだ。でも、いまはそういった簡単な時代じゃなくて、何もかもが停滞気味で右肩下がりの状態でことを成し遂げなくてはいけない。経済だけじゃない、国際情勢とか安全保障とかそういったことにも注意を向けながらビジネスをしなければいけない。

 

 繰り返しになりますが、戦略が必要になってきます。