もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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長い間、文字と紙は分かちがたく結ばれていた。仲の良い夫婦のようにずっと一緒だと思われていた。しかし、コンピュータやインターネットの登場により、その固いきずなは断ち切られようとしている。文字と紙は「紙の書物」という形の結婚生活を続けることができるのか。それとも文字は紙に別れを告げ、ネットやアプリといった新しい恋人と生活を始めることになるのか。書物のこれからについて考えてみた。

 

1 もうすぐ絶滅するという紙の書物について

『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』という本がある。今回の記事のタイトルとして拝借した。ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールが書物をテーマに語り合った対談集だ。

 

ウンベルト・エーコは1932年生まれで、『美の歴史』『醜の歴史』といった著作で有名な記号学者である。小説家としても有名らしく、『薔薇の名前』という本を出している。ジャン=クロード・カリエールは脚本家として有名であり、『ブリキの太鼓』というギュンター・グラス原作の映画の脚本を書いている。また、日本の映画監督、大島渚とも一緒に仕事をしたことがある人だ。

 

「紙の書物はこれからどうなっていくのだろう」ということを考えるために参考として読んでみたが、所々非常に参考になる部分があったものの、ほとんどの話はインキュナビュラ愛好家としての二人がそれぞれ収集してきた本や今は忘れられてしまった詩人などの話題に費やされている。

 

インキュナビュラとはラテン語の<incunabula>がもとになっており、もともとの意味は印刷本の歴史を擁する「揺り籠」で、要するに十五世紀のすべての印刷本を指す言葉である。活版印刷を発明したグーテンベルクの生没年は1400頃~68となっているので、印刷技術が誕生した黎明期の書籍をお二人はこよなく愛しているのである。

 

2 はかなく散った媒体たち

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お二人の話の中でフロッピーディスクやCDーROMなど、今はなき媒体について触れられているくだりがあり、「紙の書物はぜったいになくならないだろう」という結論におちつく。数年で消えていってしまう媒体と異なり、紙は数百年以上の耐久性を持っているし、電気がなくても表示することができる、まことに完成度の高いツールなのだ。

 

この点から書物の未来を予測することができる。

 

つまり、自分が保有していたりアクセスする権限を有している文字情報について、数年後に再生できなくなったりアクセスできなくなったりすることをどうしても避けたい人は紙媒体の書物を購入することを選択する。一方、一度読めば二度と同じ本を読まない人や文字情報を再生できなくなっても何ら支障がない人はKindleやiBookといったサービスを選ぶだろう。

 

現代日本において、両者の割合はどんなものだろうか。僕の感覚からすると、前者は1パーセントにも満たないのではないだろうか。(ちなみに、昨今の日本の出版事情についてはこちらの記事が分かりやすかった。)

 

もし僕の感覚が正しいとすると、紙媒体による書籍の出版点数はどんどん落ちていくだろう。

 

3 電子書籍の未来

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今回参考にした書籍をもう一点。川上量生『鈴木さんにも分かるネットの未来』だ。著者は株式会社ニワンゴで「ニコニコ動画」運営に携わっており、スタジオジブリでプロデューサー見習いをしている。

 

宮崎駿、高畑勲という二人の天才のプロデューサーをつとめてきた鈴木敏夫の後継者、といったところだろうか。言うまでもなく本のタイトルに入っている鈴木さんとは鈴木敏夫のことである。

 

川上量生はこの本の中で「電子書籍の未来」というタイトルで丸々一章をあてて論じている。川上は別の章で「優良なコンテンツをつくり、プラットフォーム化していかないと勝負できない」と主張しており、それはこの電子書籍の章にも当てはまる。

 

この主張はゲームのことを考えると分かりやすい。男の子ならばあるゲームをするためにゲーム機も一緒に購入した経験があるだろう。僕にもある。『Bloodborne』というゲームをやりたいがためにPS4を買ってしまったのだ。ちなみにこのPS4は今はNETFLIXの動画再生装置として活躍している。

 

この例で分かるように、魅力的なコンテンツのためなら消費者はプラットフォームを購入したり、加入したりすることを厭わない。こうすることによって、アマゾンやアップル、グーグルといった超巨大企業の提供するプラットフォーム以外でコンテンツを提供できるようにするのだ。

 

そうしないと、せっかくつくりあげた優良コンテンツはアマゾンなどを儲けさせるばかりで、自分たちの手元には利益がほとんど残らない可能性がでてくる。この戦略をとるために大切なのは、当たり前だが魅力的なコンテンツである。これから電子書籍が盛んになっていくと考えられるが、例えば既存の出版社はコンテンツづくりに注力しつつ、プラットフォームの構築を検討すべきだろう。

 

4 これからの書き手が考えるべきこと

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僕も物書きのはしくれとして今後の書籍の未来は大いに気になっているところだ。現状を眺めていて非常に気になるのが、例えばKindleで提供されている電子書籍が、単に紙の本を電子化しただけのものということ。

 

これでは流行らない。

 

電子書籍には電子書籍にふさわしい内容というものがあり、書き方というものがあるはずだ。漫画がスマホの画面に合わせてコマ割りを変化させたように、書籍もスマホの画面に合わせて文章の流れや分量を変化させていくべきだろう。

 

ちなみに、これは自分への戒めでもある。現在、数本の小説を準備中であるが、一本はスマホで読むことを最優先にした内容と構成にするつもりだ。簡単ではないと思うが、一つ一つクリアしていこうと考えている。

※参考文献